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今日は、授業参観の日だな。
丁度キリもいいし、そろそろ切り上げるとしよう。
「それじゃあ俺は先にあがる」
ん、なんだ?そんなに驚く事か?俺が早く帰る事が。
矢部、メガネがズレてるぞ。驚きすぎだ。
「何驚いてんのよ、今日は授業参観の日じゃない」
そう、そうだ。というか、お前よく覚えてるな……。
いつもそうやって細かい所まで見れれば良いんだが。
「じゃあな。お疲れ」

こんな早い時間からアカデミーを出るなんて、初めてかもしれないな。
それだけ、あいつらに構ってやれてなかった……か。
よし、せめて今日の授業参観だけでも――

ん?電話?誰だ?

「はい、もしもし?」
……。
…………。
「すぐに行きます!」
母さん……母さん……!くそっ!

上手く呼吸ができないくらい息があがってしまった。
「母は、母はどうなるんですか?」
「今から緊急手術をします」
「そうですか……よろしくお願いします」
頼む……。母さん。どうか……

どれくらい時間が経っただろうか。
外はもう赤みが差していて、影は長かった。
「あ……」
ふと思い出した。そうだった。
今日は――

約束を思い出した瞬間、ドアが開いた。

「どうだったのですか!」
「根本的な改善ではないですが、今回の手術は成功です。しばらくは大丈夫です。」
心底ホっとした。吸う空気の倍くらいの息を吐いたような気がした。
とにかく、無事でよかった……。本当に……。

寮までの時間、俺は自分を責めていた。
約束をすっぽかした事。兄弟に寂しい思いをさせた事。
全て、俺の責任だ。情けなくて笑ってしまう。

「……後で、謝らないとな……」
許してくれるだろうか。
二人とも、ショックだっただろうな……。

寮の前に着くと、部屋に電気が点いていた。
おかしいな、消し忘れたか……?
「おかえりお兄ちゃん!」
ドアを開けると聞きなれた声がした。
「来てたのか!?」
「よう、友沢。聞いたぜ、大丈夫だったんだって?よかったな」
「お邪魔してるよ。」
「お前達!?」
な、なんでここに居るんだ。お前はまだしも、橘……!
って、俺は何を考えている。
「お兄ちゃんはとっても大切な用事で来れないから」
「みずきおねえちゃん達が授業参観に来てくれたんだよ」
そうだったのか……!
お前達……余計な事を。おせっかいなやつらだ。
「おせっかいなやつらだ。まさか、おまえ達に貸しを作るとはな」
ありがとう、くらい言えないのか俺は。
どうも橘を前にしたら言葉が……。
「別ににあんたのためじゃないよ。この子達を悲しませたくなかっただけ。この子達のあんたへの想いは私にはよくわかるんだよ。」
……口は悪いが、根はいいやつだな。
思わず微笑んでしまいそうになったが、意地と建前がそれを阻止した。

「そうだ、あんた元変化球投手でしょ?今度、いろいろコツ教えてよ。それで貸し借りなしね」
思いがけない言葉だった。
橘が俺に何かを教えてと頼むなんて、夢の中ですら無いと思っていた。
いっつもつっかかってきて、勝手に怒って……。まったく、変なやつだな。こんなやつに貸しを作るとは。
「いいだろう、余計な貸し借りは作ら……」
ない主義――。



「わっ、ちょっ」
倒れこんで来た友沢を、抱きかかえるようなカタチで受け止めてしまった。
お、重い。意外と重いのねあんた…。それに肩幅広いし。っていうか寝てるし。
「おにいちゃん!?」
「疲れて眠っているだけよ。いろいろ心配事があったしね」
そうよね、いっつも一人で背負って。
この大きな背中になんでもかんでも背負ったって、あんたは一人しか居ないんだから……。
少しは私にも背負わせてくれたって……。
「みずきお姉ちゃんはやっぱり優しいね」
「うん、そだね」
え?あ、あれ?私口に出したのかな……?
「だっていっつも、お兄ちゃんがいってるよ。『あいつは本当は素直で優しい』って」
なななな何、何なに、何よそれ!
「え、な、何よそれ!?い、いい迷惑よ!!!」
顔、赤く、なってないかな 平常心、平常心よみずき。

「はは、友沢もありがとうの一言ぐらいあってもいいのにな」
「ほ、本当だわ。でも、ありがとうって言ってるよね」

この、寝顔が。

初めて、声に出さなくて分かった気がする。
(1)

モドル